「ちょっと待ってて」

幾多はまた学生達に笑顔を向けると、体の方向を変えた。

恐怖からか、慣れているはずの運転席から出ることに、もたついている運転手に向かって走った。

「ヒイイイイ!」

悲鳴を上げた運転手の脇腹から、血塗れのナイフを突き刺した。

「く、狂っている」

学生達も、後ろに下がった。

バスが止まった為、何とか後ろの出入口から脱出しょうとする乗客達で、車内はまたパニックになる。

しかし、扉は開かない。


運転手を刺した後、冷やかに乗客の様子を見ていた幾多は、せせら笑った。

「みんな…自分だけ助かりたいのか。フッ…まあ、人間らしいか」


「あいつ、狂ってるよ」

女子学生は携帯を取り出すと、警察に電話した。

「もしもし…」

警察に状況を説明している女子学生を、 幾多はただ見つめると、腕を組んだ。

そして、電話が終わるまで待った後、

「警察が来るまで、どうする?」

女子学生に訊いた。

そんな幾多に、バス内の乗客に戦慄が走った。

乗客の動きが止まり、ただ前にいる幾多の方を見た。

幾多は、乗客の数を数えた。

「…10人もいるじゃないか。一斉にかかったら、勝てるかもよ」

幾多の言葉にも、乗客は動かない。

なぜなら、バスの通路は狭く一斉には、襲いかかれない。

でも、そんな分析ができる者はいなかった。

幾多はクスッと笑い、ナイフを向けた。

「警察が、来るのが早いか…。君達が全員死ぬのが先か…試してみようか?」

幾多はナイフの血を拭うと、ゆっくりと乗客の方に歩き出した。


「どうして、何だよ」

窓を開けて、逃げようとする乗客もいたが、中々開かない。

そんな様子に、幾多はうんざりとしていた。

「俺達が、何をしたんだよ」

学生の叫びに、幾多はこたえた。

「そうだね」

幾多は軽く首を捻り、考え込んだフリをすると、

「君達の考え方だよ」

学生に笑いかけた。