「まあ〜選ぶ道は、2つだが…」

幾多は、渡り廊下を後にした。

渡り廊下から伸びる階段を降り、しばらく歩いていると…後ろから鈍い音がして、校内に響いた。

幾多は笑った。

「そうだ。それが、最善の選択だ」

山下は、渡り廊下から飛び降りたのだ。

これからの自分の未来を考え、最善の方を選択したのだ。

死という選択を。



裏口から、悠然と出てきた幾多の前に、深々と頭を下げる女が現れた。

「うん?」

幾多は足を止めた。

「お疲れ様です」

女は顔を上げた。

「こんなとこまで、どうしたんです?先生」

幾多は微笑みかけた。

女は、保健室の女医であった。

「あなたを御迎えに」

女医は、潤んだ瞳を幾多に向けた。

「へえ〜」

幾多は感心した。

「もう警察の手が、回ります。その前に、あなたを安全な場所に」

女医の言葉に、幾多はきいた。

「どうして?」

女医は、幾多を見つめ、

「あたしは、あなたの奴隷です」

「そっか」

幾多は微笑み、女医について行くことを決めた。

愛してるや、好きと言ったなら、幾多は女医の言葉を信じなかった。

奴隷の言葉に、納得したのだ。

「君の選択を、尊重するよ」

幾多は、女医の顎に手をやると、キスをした。

「どうしてでしょうか」

唾が糸引く唇を離れた後、女医は顔を赤らめながら、

「今までと、キスが違います」

明らかに、興奮していた。

「そりゃあ〜そうだろ。僕は、生まれ変わったからね」

幾多は、自分の手を見た。

人を刺しても、妹の命をたっても、自分の心は揺るがない。

幾多は確信した。

自分の道を選んで行けると。

幾多は、学校から少し離れたところに停めてあった女医の車に乗り込んだ。

運転席に女医は、座った。

「きちんと、褒美はあげるよ」

幾多の言葉に、

「ありがとうございます…ご主人様」

女医は礼を述べた。

幾多は微笑むと、またキスをした。

そして、車は静かに発車した。