悲鳴を最後まで上げることなく、渡り廊下まで転がった奈津美を見下ろしながら、

「黙れ」

幾多は、冷たく刺すような視線を奈津美に浴びせた。

そして、幾多はガタガタ怯えているだけの山下に目で、渡り廊下にいくことを命じた。

震える足で、山下は移動した。

2人が渡り廊下に並ぶのを確認すると、幾多はナイフの柄を拭くと、2人の間にナイフを投げた。

「君達2人の内…1人だけ助けて上げる」

幾多は微笑み、

「相手を刺した方をね」

「!?」

その言葉に、奈津美と山下は顔を見合わした。

「早くしてよね」

幾多は、学生服の中から銃を取り出した。

勿論、モデルガンだが、夜であることと先程、実花を殺害したことが真実味を増した。

その銃口が、2人を急かした。

「ひいいい!」

ナイフを拾い、相手を刺した。

「やはり…君か」

幾多は微笑んだ。

真っ先にナイフを掴み、相手を刺したのは、山下だった。

震える手で、奈津美の心臓を一突きしていた。

幾多は目を細め、奈津美を見た後、

「彼女は、フラれた他人の為にやった。君は、希望校に入りたい為…つまり、自分の為にやった」

山下に目をやり、にこっと笑った。

「え?」

幾多の方を向いた山下は、突然眩しい光に照らされた。

銃を構えた右手ではなく左手で、幾多は携帯を持っていた。

いつのまにか、殺したときに実花の手から落ちた携帯を、手にしていたのだ。

「便利だね。今は、証拠を送れる。君が、その子を刺したという証拠をね」

幾多は、今撮った写真を登録アドレスに一斉にメールした。

「あああ」

力いっぱい刺したナイフから手を離すと、山下は頭を抱えだした。

「約束通り、君は殺さない。だけど…」

幾多は笑みを抑えながら、言葉を続けた。

「こんなことをしてしまった…君は、希望校には、いけないね。それに、これから大変だよ」

「あああ…」

山下はもう…幾多の声も聞こえない。

クスッと幾多は笑うと、山下に背を向けた。

「選ぶがいい。自分の道を…」

銃をしまうと、実花の携帯を丁寧に拭くと、実花の遺体の横に落とした。