10分後、山下は学校に着いた。

そこは、涼子も通っていた場所。

そして、涼子が自殺した場所でもあった。

(やはり…)

幾多は、正門に向かわずに、裏口に回る山下の背中を睨んだ。

後を追おうとした瞬間、幾多の携帯が鳴った。

マナーモードにしていた為、周りに音がもれることはなかった。

(時間がないな)

携帯を切ることなくそのままの状態にして、幾多は歩き出した。



学校は思ったより、広い。

宿直の先生が残っているとはいえ、生徒の出入りをすべて、監視はできない。

裏口から忍び込んだ生徒は、山下の他に2人。

彼らは、職員室のある校舎からは死角になる北校舎と、別館をつなぐ渡り廊下のそばに集まっていた。

「まじなの?涼子が退院したって」

三人の中で、一番怯えているのは、ショートカットの柳奈津美。

「そんなはずはないよ。わたしは、病院まで確認に行って、確かめたんだから」

爪を噛みながら、イラついているのは、松下実花。

「俺は、知らないよ。か、関係ないじゃないか!なのに、どうして〜電話があるんだよ」

山下雄大は、完全に怯えていた。

「今更、何言ってんだよ!あんたも、この話に乗っただろうがよ」

実花は、完全に怯えている山下を見て、さらに苛ついた。

「お、俺は…幾多がいなくなれば、希望校の枠があくからと…」

実花は山下をキッと睨み、

「だから、あんたはその枠に入れたんだろうが!」

「そ、そうだけど…」

山下はシュンとなった。

「あ、あたしはただ…木村君をふった涼子が、許せなかったから…」

奈津美は、か細い声で口を開いた。

「みんな…あいつが、気に入らなかったのよ!あいつが、周りのやつにちやほやされているのを見る度に、許せなかった!」

実花は、爪を噛みきった。

「実花…」

奈津美は、実花をすがるように見た。