あの日、幾多は自分の道を選んだ。

生と死を選択する者に。

その前に、兄として…最後の役目を。

幾多は、妹の通う学校に向かった。

自分の妹が、男と揉めただけで、死ぬとは考えられなかった。

自分の妹である涼子も、相当モテていた。

そんな妹が、心を奪われる程の大恋愛をしたなら、幾多にもわかるはずだった。

妹の死が見つかり、自分に捜査の目が向く前に、幾多は、妹の恋人と言われた男の家の方に向かっていた。

無断で妹の携帯を拝借し、幾多は登録してあるアドレスに、一斉メールをしょうとした。

『皆さんには、ご心配をおかけしました。何とか意識も戻り、元気になり、本日退院しました』

と、メールを打った後、幾多は一度…手を止めた。

少し考え込んだ後、改めて、さらに文字を打ちたした。

『本当は、出歩いてはいけないのですが…行きたい場所があるので、今夜…久しぶりに外に抜け出そうと思っています』

それだけ打つと、息を吐いた。

妹と交際していたと言われる男の住所は、入手していた。

自殺の原因となった人物だからだ。

警察は直接、親族と合わせてはくれなかったが、名前と住所がわかればいい。

涼子は、中学三年だった。

受験生が、塾に行かない場合は少ない。

それに、高校生と違い、塾に通うとしたら、地域内が多い。

そんなに、離れた場所ではないだろう。


幾多は調べ上げていた。

男が通っている塾を。

塾は6時から、9時まで授業を行っていた。

学生服を着た幾多は、平然とその塾の中に入った。

一応、その塾は大学進学コースもあったからだ。

見学という名目で中に入った幾多は、高校進学コースを探した。

すると、教室は2つに別れていた。

どちらも、授業中だ。

だから、講師の声以外聞こえない。

幾多は携帯を取りだし、ある番号にかけた。