ベットの上で、数多くのチーブに繋がれた少女は、目を開けることはない。

その可能性すらない。

永遠の眠り…。

幾多の妹…涼子は、一生意識が戻らないと言われていた。

植物人間となった涼子は、自殺を計ったのだ。

その理由は、男女のもつれだと言われていた。

彼女は飛び降り自殺を行った。

しかし、運良く…死ぬことはなかったのだが、頭の打ち所が悪く、病院に運び込まれた時から、意識がなくなっていた。

それから一ヶ月。

涼子の怪我は治ったが、意識は戻ることはなかった。

脳死に近い状態だった。

そんな状態になっても、生きてほしいと願いを込めた母親は、延命処置を希望した。

だから、チーブに繋がれ、生命維持装置により、涼子はかろうじて生きていた。


(生きている?)

幾多はベッドの横で、椅子に座りながら、じっと涼子の横顔を見つめていた。

ここしばらくの苛立ちの理由の一つは、ここにあった。

幾多の無意識に、拳を握り締めていた。

「うん?」

涼子に気を取られていたことと、部屋の灯りがついていなかったこともあり、幾多はすぐそれに気づかなかった。

「花?」

綺麗に生けられた花は、昨日はなかった。

いや、ずっと花瓶には、花は生けられていたが、種類が変わっていた。

「あいつが来たのか」


2日に一度は、見舞い来ている男。

幾多は、もちろんその男の名前を知っていた。

「真(まこと)」


しばらく花を見つめてから、幾多はベッドの上の涼子に視線を戻した。

(生…)

生きるとは、何だ。

答えは、出ていた。

花瓶に生けられた花も美しいが、本当の意味で生きていない。

そして、涼子も。

涼子は自ら死を選んだ。

それなのに、生きている。

自らの選択の結果と違う。

親の気持ちでは、生きてほしいんだろ。どんな形でも。

そして、兄の気持ちは…。

(生きてほしいか…)

しかし、自分の…幾多流としては…。

幾多はおもむろに、椅子から立ち上がった。

(我は、選択する)

幾多は、ベッドの上の涼子を見下ろした。

そして…。