女医は少し口を尖らせると、幾多に近づき、彼の胸に手を置いた。

「いじわるね。あたしの場所で、あんなことをして」

指で、幾多の胸をなぞった。

しかし、幾多は何の反応も起こさずに、ただ…窓の外から目を離さない。

「何を見てるのよ」

女医は幾多の肩越しに、外を覗いた。

「また別の女を見つけたの……?」

幾多の視線を確認し、見てる方向に顔を向けたが、

女はいなかった。

1人の男子生徒が、歩いているだけだった。

「男?」

意外そうに言う女医に、幾多は軽くふき出した。

「駄目ですかね」

幾多は、窓から視線を外すと、身を寄せている女医の顎に手をやり、キッスをした。

「もお!」

数秒後、唇を話した幾多を、女医は軽く睨んだ。

しかし、幾多はまた窓の外を見ていた。

もう男はいないが…。

「さっきの子…。高坂君でしょ?」

女医は、幾多が自分にあまり興味を示さないから、話題を変えた。

「…」

だけど、幾多は答えない。

「やっぱり、彼が気になるの?彼は…」
「頭脳明晰。品行方正」

女医の言葉を、幾多は遮った。

「僕のような遊び人とは、まったく違うと」

「そ、そこまでは…」

女医は、幾多を怒らしたと思った。

「!?」

しかし、幾多は微笑むと…唇と重ね、女医の言葉を止めた。


そのまま抱き締め、立ったままで、女医を抱いた。




女子生徒と違い、気は失わなかった。しかし、女医は腰が抜けたのか…その場でへたりこみ、立てなくなった。

幾多は平然と、また窓の外に目をやると、

「普通に勉強ができるやつも、今グラウンドに…いや、この学校にいるほとんどのやつの考えていることは、わかる」

幾多は笑い、

「下らない悩みばかりさ」

へたりこんでいる女医に、ウィンクをした。

「やつらの見てる世界は、下らないし、想像できる。だけど…」

幾多は目を細め、

「あいつの見てる…いや、これから見ていく世界は、僕には想像できない世界なんだろうなって…考えてた」