カレンは、命に別状はなかった。

それは、カレンの体が丈夫であるとか…運ではなかった。

アルテミアに、殺す気がなかっただけだ。

今のアルテミアは、必要以外に人を殺すことをする気はない。

そいつが、人に害する者でない限りは…。

数年前のアルテミアならば、母を愚弄された場合、意識はしていなくても、手加減できずに…殺していただろう。




九鬼は、町並みの屋根を伝うことで、最短距離で裏門まで到達した。

空中で門を飛び越え、着地すると、中央校舎から桂美和子が飛び出して来た。

「情報倶楽部から、連絡が入りました。そのまま、部室に向かって下さいとのことです」

「了解しました」

情報倶楽部の部室は、生徒会長と新聞部部長しか知らされない。それが、この学園の掟になっていた。

防衛軍に所属していた美和子も、なぜか…その部分は守っていた。

九鬼は一応、部室から一番遠い秘密の入口より、中に入ることにした。




「いらっしゃいませ!生徒会長」

勿論、入口にも結界は張られている。

情報倶楽部の技術部門を一任させている舞が、結界に認識させた人物しか通ることは許さないようにしていた。

今回は、カレンを連れていることもあり、一瞬だけ結界を解いたのだ。

「奥の部屋に、寝かせて下さい」

舞は、いつのまにか…白衣に着替えていた。

「頼みます」

奥の部屋は、普段は仮眠室…有事の時は、籠城する為の貯蔵庫にもなった。

九鬼が、中央に置かれてある簡易ベットに、カレンを横たえると、舞がカードを取りだし、状態を調べた。

「内臓のどこかが、破裂してる場合は、ここでの治療は無理ですが…外傷だけならば」

九鬼が、心配そうに見守る中、舞は笑顔を向けた。

「凄まじい力を受けているようですが…内臓に傷はついていません」

「よかった…」

「それにしても…どういう鍛え方をしてきたのか…」

舞は感嘆した。