全身から、嫌な汗が流れた。

しかし、そんなことを気にしてる余裕は、カレンの神経にもなかった。

恐ろしさが、カレンのすべてを支配していた。ただ一つを残して…。

それは、心である。

病室で横たわる母の姿。

その母から、海の底に捨てるように言われたピュア・ハート。

それを今まで、捨てずに持っていた理由は、ただ一つ。

カレンは、アルテミアを睨み付け、

「あたしの名は、カレン・アートウッド!お前の母!ティアナ・アートウッドにて、地に落ちたアートウッドの名声を取り戻す!」

「…」

カレンの言葉を聞いた瞬間、アルテミアは目を細めた。

「お前を斬り!お前の能力を貰う!そして、あたしが魔王を倒す!」

カレンが、前に飛び出そうとした時、アルテミアはもう後ろにいた。

「何もわからない…馬鹿が…勝手なことを!」

「え…」

カレンの頬を、風が通り過ぎた。

アルテミアの動きより、風の方が遅かった。

「ああ!」

風を感じた時には、カレンの全身は切り刻まれ…宙に舞い、地面に激突していた。

「それに…てめえ如きに、魔王は倒せない」

アルテミアは振り返ることなく、歩き去った。

アルテミアの動きは、近くにいた人間の目ではとらえることはできず、カレンが舞ったのも、アルテミアが大分離れてからのこともあり、彼女がやったとは思わなかった。

「畜生…」

全身を貫く想像をこえた痛みに、自己防衛本能が働き、意識を失う前に…カレンは思わず離してしまったピュア・ハートに手を伸ばした。

ピュア・ハートに指先が触れた瞬間、カレンは気を失った。



数分後、ショッピングモール襲撃の通報を受け、警察の守備隊と救急車が現場に到着した。彼らは、入口前に血溜まりを発見したが、そこにいたはずの怪我人を見つけることはできなかった。

少しだけ這った跡が残っていたが、すぐに消えていた。