「最後の一匹!」

銃口を向けながら、梨々香が走ってきた。

音速を超えた魔物の両手の動きに、緑は防戦一方になっていた。しかし、走りながら撃った梨々香の銃弾が、魔物の注意をそらした。

「は!」

緑は身を屈めると、木刀で魔物の足を払った。

しかし、その何度も同じ手でやられる魔物ではなかった。バランスを崩しながらも、何とか倒れずに踏ん張る。

そこに、下から突き上げる緑の突きと、梨々香の銃弾が追い討ちをかける。

「キエエエ!」

甲高い奇声を発すると、怒り狂った魔物が両手を振り上げ、立ち上がろうとする緑を頭上から、切り裂こうとした。

「させない」

突然、魔物の動きが止まった。

「生徒会長!」

輝が叫んだ。

乙女ブラックが、魔物を後ろから羽交い締めにしていた。

「フン!」

そのまま気合いとともに、背中を反らし、ジャーマンスープレックスの体勢になった。

魔物の脳天が、床に突き刺さる。

「トゥ!」

魔物から離れると、乙女ブラックは空中に飛び上がり、

「月影キック!」

そこから蹴りを魔物の土手っ腹に叩き込んだ。

「ぐぎゃあああ!」

断末魔の叫びを上げて、魔物は絶命した。

「さすがね」

満足げに、頷く理沙。それから、何かに気付いたように、首を傾げた。

「…でも、色が黒い」

「フン」

理沙の隣にいた真由は、軽く鼻を鳴らすと、魔物達の襲撃により、人がいなくなったショッピングモールの奥へ歩き出した。

逃げ遅れた人が、数人いるが…ほぼ無傷だった。

河馬に似た魔物によって、死亡した人間も10人もいなかった。

それでも、大惨事である。

だが、真由は気に入らなかった。

(死んだ人間の数が、少な過ぎる)

顔をしかめた真由の隣に、高坂が来た。

「助けることができなかった…。もっと、俺に力があれば…」

高坂は、真由の表情を惨劇を見た為に、心が痛んだものととらえた。

しかし…本当は…。