「あ、あなたは!」

尻餅をついている輝の横を、トンファーを握り締めた女が駆け抜けた。

あまりにも分厚いレンズの眼鏡をかけている為に、表情はわからなかった。

しかし、輝はわかっていた。

「いつぞやの…隠れ美少女」

眼鏡の下にある…隠された美貌に。

しかし、輝も気づかない。

そのさらに奥にある…真の彼女を。


「フン」

無表情で、鼻を鳴らしながら、女はトンファーを一回転させた。

「キィィ!」

奇声を発しながら、両手を振り上げる魔物。

その鋭い鎌で振り下ろされる攻撃を、トンファーで受け止めるつもりはなかった。

空気が切れる音がした。

軽く音速を超えたのだ。

しかし、女は…振り下ろされた鎌の攻撃を少し後ろに下がるだけで、避けて見せた。その動きは、人の目では、とらえきれない。だから、勝手に鎌が空振りしたように見えた。

女の動きは、それだけではなかった。

避ける同時に、二本のトンファーを回転させ、先程の高坂とのやり合いを見ていたかの如く、魔物の腕を上から叩くと、鎌の先を床にめり込ませたのだ。

そして、接近した状態から、真っ直ぐ前に突きだすような蹴りを、魔物の鳩尾くらいに叩き込んだ。

その蹴りの威力は、人間離れしていた。

蹴りを喰らった魔物はふっ飛び…床に突き刺さっている腕の抵抗を受けた結果…肩の付け根から腕がもげた。

床に突き刺さり、残る二本の腕。

数メートル先に転がる魔物の胸に、女の足跡がくっきりと残っていた。そこから突然、電気が放電すると、魔物はやがて…もがき苦しみながら、炭と化した。

女が魔物に向かってから、魔物が灰になるまで、ほんの数秒である。

女は、魔物の最後を確認するよりも、高坂を…いや、その向こうに立つ…真由と理沙を睨んでいた。

「フン」

そして、再び鼻を鳴らすと、緑と戦っている最後の一匹の方に、体を向けようとした。

「!?」

しかし、背中から感じる気の動きを察知し、フッと笑うと、来た道を戻っていった。