踏ん張る暇もなかった乙女ブラックだが、何とか大きく開いた魔物の口を両手で掴んで止めた。しかし、そのまま床を削りながら、数メートル後ろに下がってしまった。

「クッ!」

何とか、突進を止めたが、膠着状態になってしまった。

手を離し、高速で移動することは可能だった。

だが、それはできなかった。

逃げ遅れたお客が、後方にいたのだ。

腰が抜けたのか、動けない白髪の老人。

乙女ブラックが、手を離した瞬間、魔物にふっ飛ばされたのは、明らかだった。

(どうする?)

乙女ブラックが悩んでいると、梨々香が近づいてきた。

「ステラ!召喚よ」

梨々香は、銃をスカートの間に挟むと、ステラに向かって腕を差し出した。

どこからか飛んできたものを掴むと、梨々香は乙女ブラックの真横に立った。

梨々香の手にあるのは、マシンガンだった。

銃身を両手でしっかりと掴むと、そのまま銃口を魔物の口の中に突っ込んだ。

「内臓は、固くあるまいて!」

梨々香はそのまま、マシンガンをぶっ放った。

凄まじい音を立てて、魔力でできた銃弾が放たれ、魔物の内臓をズタズタにした。

固い皮膚は、内側からも貫通することができなかったが、そのことが体の中で、銃弾が跳ね回ることになった。

そして、魔物は活動を永遠に、止めた。



その頃、鎌の腕をした魔物と戦っていた輝は、トンファーを振り払われると、床に尻餅をついた。

「何やってんだ!」

輝が気になって、緑は戦いに集中できない。

「やっぱり…刃物系は無理」

尻餅をついた反動で、輝の両手にあったトンファーが床を滑り、ショッピングモールの出入口の方まで行ってしまった。

「輝!」

二本のトンファーを拾おうと、高坂が振り向いた時、出入口からこちらに歩いてくる女がいた。

「!?」

その女は、大月学園の制服を着ていた。

女は足で、二本のトンファーの端を踏むと、じゃがむことなく、両手で掴んだ。

そして、トンファーを一振りすると、魔物に向かって走り出した。