「誰の声だ!」

学校にいた九鬼は、全力で走っていた。

頭の中に響いた声が、ショッピングモールでの魔物の襲撃を告げていた。

――早く来て、真弓。

九鬼はその声に、聞き覚えがあった。

いや、声自体にはない。

その声の発した方…口調が、九鬼の心が知っていた。だから、心が叫んでいた。急げと。

走りながら、夕陽が沈み…闇が降りてくる。

夕陽の最後の照り返しに紛れて、九鬼は眼鏡ケースを突きだした。

「装着!」





「月の戦士?」

その言葉が意味するものは、一つしかない。眉を寄せた高坂と違い、輝の思わず呟いてしまった。

「生徒会長…」

「あら〜正体がバレてる」

真由が、クスッと笑った。

そんな真由を、高坂は凝視した。

しかし、そんな暇はなかった。

「キイイ!」

両腕が鎌でできた魔物が、突進してきたからだ。

「ひぇ〜」

思わず、避ける輝。

「クソ!」

緑は、何とか二匹の魔物を食い止めたが、一匹だけ高坂達に向かってきた。

「チッ」

高坂は軽く舌打ちすると、真由と理沙を背中で庇いながら、テーブルの上にあったカップを魔物の顔目掛けて投げた。

「キイイ!」

魔物の鎌が一閃し、カップを真っ二つにした。

ジュースが周囲に飛び散る。

「高坂アタック!」

その瞬間を狙って、高坂は上半身を屈めると、魔物の両足にタックルを仕掛けた。

背中から転んだ魔物は、両腕が鎌の為に、なかなか起き上がれない。

「成る程!」

高坂の攻撃を見て頷いた輝は、勇気を振り絞って緑とやり合っている魔物の方を向いた。

しかし、魔物も馬鹿ではない。腰を屈めて、両腕を無軌道に振り回すことで、タックルを防止する。

「ゲッ!」

輝のやる気が、一気になくなった。

「さっさとしろ!」

木刀で鎌を弾きながら、緑が輝に向かって叫んだ。

「は、はい!」

返事はするが、足が動かない。

「輝!」

高坂は、輝に向かってあるものを投げた。