(九鬼真弓に…輪廻…さらに)

ショッピングモール内の人混みを、かき分けながら歩く後藤。

その目は、人混みではなく…虚空を見つめる。

(天空の女神)

普通ならば、国家レベルの問題である。

(ケッ)

後藤は吐き捨てるように、笑った。それは、己に対してである。

単なる文屋に何ができるというのか…。

(だが…一度亡くしかけた命だ)

後藤は、くたびれたグレーのスーツのポケットに両手を突っ込むと、人混みを抜けた。

「うん?」

ショッピングモールの入り口の横で、壁にもたれる少女に目がいった。

なぜ目がいったのかは、わからない。

次の瞬間、後藤は目をそらし、早足でその場から離れた。

その行動は、すべて…無意識である。

(な、何だ?)

自分自身がわからずに、もう一度少女の方を振り返ろうとした。

「駄目だ」

いつのまにか、背中に張り付いていたアイが、強い口調で言った。

「アイ?」

それでも振り返ろうとする後藤に、

「早く行け!殺される!」

アイは叫んだ。

「!?」

訳がわからなかったが、アイの尋常ではない怯え方に、後藤は逆らうことをやめ、前を向いたまま、歩き出した。

しばらく歩いてから、後藤は足を止めた。

「一体…どういうことだ?」

一瞬だけ見た少女の姿は、梨々香と同じ制服に…分厚い眼鏡という…あまり目立たない生徒のように思えた。

「あ、あいつは」

アイは後藤の背中から離れると、深呼吸をした後、言葉を続けようとした。

――言うなよ。

その時、アイの頭に鋭い声が突き刺さった。

それは、思念であった。

妖精であるアイだけが、気付いた女の正体。

「どうしたんだ?」

首を傾げた後藤が振り向くと、もう…そこに誰もいなかった。

「やっぱり…今回は、ヤバいかもしれない」

震えながらそう言うと、アイは上空に浮かび上がり、そのまま飛び去った。

「やれやれ…」

後藤は、頭をかいた。

それから、口元に無理矢理笑みをつくると、ショッピングモールの入り口に背を向けた。

「ヤバい程…真実に近い」