「おじさんが追ってたのって…」

一応ここで気を使ったのか…梨々香はひそひそ声になり、囁くように言った。

「月影でしょ?」

「ああ…そうだ」

後藤は、月影関係の謎を追っていた。その過程で、後輩は命を落とし、後藤本人も死にかけた。

「だけど…その首謀者と言われていた…うちの校長は、死んだわ。校長の2人娘もね」

「な」

後藤は絶句した。

「これは、内緒だけど…うちの部の見解では、月影に関して嗅ぎ回った相手を殺してたのは、彼女達かもしれないって。だけど…彼女達は死んだ。月影の力を巡る争いでね」

梨々香の言葉に、後藤は考え込んだ。

大月学園の校長であった結城哲也。彼は、日本地区の司令官の一人でもあった。その名は、防衛軍では知らぬものはいない程の軍人だった。

「彼女達の死によって、月影の事件は終結したと、あたし達の部は思っているけど」

「だったら…」

後藤は腕を組み、

「その月影の力は、どうなったんだ?」

考え込む。

そんな後藤に、梨々香は衝撃的な事実を口にした。

「天空の女神が、すべてを手に入れた…」

「天空のめ、めがみい!」

後藤の声が上ずった。

「声が大きい!」

珍しく、梨々香が注意すると、

「それも、あたしは見たことがないけど…何度か、校内で目撃されているみたい」

「天空の女神…」

あまりにも、現実離れした人物の名に、後藤は信じられなかった。しかし、先程の輪廻という名の教師の可能性も浮上してきた。

(あの学校で、何が起こっているんだ)

脂汗を流し、さらに考え込む後藤に、梨々香は言った。

「そんなに…月影が気になるなら…。月影に関わった生徒の中で、一人だけ生き残っている生徒がいるわ」

梨々香は、スプーンをテーブルに置くと、後藤の目をじっと見つめ、

「うちの生徒会長、九鬼真弓よ」

「九鬼真弓」

その名に、聞き覚えがあった。

「乙女ブラックの役者か」

後藤は、後輩から貰った資料で目にしていた。