彼は、ある事件を追っている時に、瀕死の重傷を負ったが、奇跡的に助かったのだ。

記者になる前は、旧防衛軍に所属していて、優秀な剣士であった。その時に、鍛えた体と精神力が、彼に奇跡を呼び寄せたのであろう。

「ふぅ〜」

後藤は、煙草の煙を吐くと、梨々香の方を見ずに訊いた。

「尾行か?」

「一応ね」

頷いた梨々香に、後藤は軽く苦笑し、

「まあ〜尾行にはなっていないようだが…。それでも、気づかれないのは凄いな。危なそうなやつだから、あまり関わらないでおこうという…人間の防衛本能ってやつを刺激しているのか」

「失礼ね!」

梨々香は軽くキレた。

「ふぅ〜」

後藤はまた煙草の煙を吹かすと、目を細めた。

視線の先にいる2人の女子高生を、数秒だけ見つめると、視線を梨々香に移した。

「今回…ここまで来たのには、理由がある。お前んとこの学校に、佐々木神流という新任の教師は赴任していないか?」

「佐々木神流?」

梨々香は首を捻り、

「新任の教師は来たけど…そいつの名は、佐々木じゃないし」

「その女の名は!」

煙草を、テーブルに備え付けてある灰皿にねじ込むと、後藤は身を乗りだした。

「た、確か…上野輪廻」

梨々香はたじろぎながらも、教師の名を思いだし口にした。

「上野輪廻…リンネ」

後藤の頭の中で、その名前から連想されたのは…たった一人だった。しかし、後藤はその考えを否定した。

(それは…あり得ない。もし…あの輪廻だとしたら…この辺りは、焼け野原になっているだろう)

後藤は落ち着く為に、新しい煙草を取り出した。

火をつける後藤の様子を見つめながら、梨々香は体勢をもとに戻すと、スプーンですくったパフェを一口食べた。

「…でも、もし、その佐々木神流って人が、学校に来てたとしても…どうなったかわからないかも」

梨々香は、テーブルに頬杖をついた。

「どういう意味だ?」

後藤は、火のついた煙草を灰皿に置くと、眉を寄せた。