輝達の席から随分離れ、ショッピングモール内を行き来する人混みを利用して気づかれないように、尾行しているのは…中小路緑だった。

「チッ。何普通に合流してんだよ」

緑は、同じテーブルに座る理沙と真由を見ていた。2人の間に、会話はない。

そんな2人と緑の対角線上の位置にあるカフェのテーブルに、ある意味堂々と座っているのが、矢島梨々香であった。

「輝のやつ!ターゲットと仲良くお茶って!何やってるんだ!」

尾行でありならば、このカフェ名物の特大パフェをさらに大盛りにして注文した梨々香。そのパフェと格闘する姿は、ある意味目立っていたが、これまた堂々とテーブルに置かれた銃があからさまで、行き交う人々は見てみぬふりをしていた。

「お客様…当建物内は、武器所持は」

店員が注意しょうとしたが、血走った梨々香の目を見て、何も言えなくなった。

この世界で、武器の保有は勿論、認められている。

しかし、日本地区のこの地域は、魔物の出現率が異様に低かった。それ故に、このようなショッピングモールが作られ、電車が定時通りに動いていた。

その為、安全を売りにしているショッピングモール内は、人間間のトラベルを考慮して、武器の所持は禁止していた。

それでも、魔物の襲撃の可能性が零でないかぎり、強制的に禁止にはできなかったのだ。

哲也達防衛軍の力や、月のご加護で守られていた街であることを、人々は知らない。

現在は、防衛軍は解体。月の戦士も実質…今は、一人しかいない。

それでもなお…この土地に、魔物が襲って来ないのは…その2つよりも、恐ろしい存在が複数いたからである。

勿論…そのことも、人々が知ることはない。


「ご、ごゆっくりと…」

諦めた店員が、テーブルから去るのと同時に、別の訪問者が梨々香の前に現れた。

「久しぶりね。梨々香」


梨々香のパフェの前に、吹き抜けの天井から、一人の妖精が降り立った。

「元気にしてた?」

身長40センチ程の妖精を見て、梨々香は顔をしかめ、

「お陰様でね」

舌を出した。