「先生!」

教師とは思えない前田の冷たい言葉に、九鬼は少し驚き、声を荒げた。

「1人の生徒が、自殺したのですよ!教師がそんな無責任なことを言って…」

「なあ〜九鬼よ。あたしは、自分の学校の生徒が、自殺なんていう愚かな行為をするとは、思えないだよ」

前田は、持っていた簡易灰皿に煙草をねじ込んだ。

「それにだ…」

手摺から離れると、九鬼を横目で軽く睨み、

「この学園は…何があるかわからない。それは…お前が一番、わかっているだろ?」

「!?」

九鬼は、前田の目に…殺気に似たものを感じた。 無意識に構えそうになるが、ぐっと堪えた。

そんな九鬼から、視線を外すと、頭をかいた。

「自分の記憶さえも、信じられない。今の苛立ちも本当か…どうか」

前田は、体を九鬼に向けた。そして、じっと目を見つめ、

「九鬼…。お前が…ここに入学した時の記憶がない。そりゃ〜あ、生徒が多いから…いちいち1人1人を覚えていないが…それでもだ」

前田は歩き出した。

「お前は…どこから来た?」

「!?」

九鬼は、目を見開いた。答えられない質問を、突然されて…何も言えなかった。

「だがな…」

前田は微笑んだ。

「!?」

「そんな疑問をかき消す程…お前を信用しているよ」

九鬼とすれ違う瞬間、前田は耳元で囁くように言った。

「乙女ブラック」

「な!」

九鬼は絶句した。

そして、思わず振り返り、東校舎内に向かって歩いていく前田の背中を見つめた。

「ああ〜それとだ」

校舎に入る前に、前田は足を止めた。

「自殺した高木麻耶には、双子の妹がいる。勿論、この学園にな」

「え」

「まあ〜その件に関しては、あたしの受け持つ部員に、探らしてみるよ」

前田は後ろ手を上げると、西校舎の奥に消えていった。