「消えた!?」

九鬼は立ち上がると、天井を見上げた。

「今のプレッシャーは、上空からか」

しばらく、じっとしていたが、やがて頭を下げると、ゆっくりと歩き出した。

「もう…何も感じない」

九鬼は、一応の平穏を取り戻した学園の廊下を一歩一歩踏み締めながら、前へ進んでいく。

「どうする?」

そして、無意識に自分に問い掛けた。

それは、まったく何もできなかった己に対する苛立ちも含まれていた。

一気に廊下を突っ切ると、九鬼は体育館と東校舎を繋ぐ渡り廊下に、飛び出した。

外の空気を全身に浴びて、一応空を見上げようとした九鬼の目に、空に上げていく細い煙が映った。

「フゥ〜」

ため息の後、

「もう下校時間はとっくに過ぎたぞ」

「あなたは…」

九鬼は、足を止めた。

「まあ〜そんなことよりも…。元気で何よりだ」

「先生…」

九鬼もため息をつき、

「学校内は、禁煙ですよ」

「あ、ああ〜」

渡り廊下の手摺にもたれ、煙草を吹かしていた女の名は、前田絵里香。この学校の教師だった。

「まあ〜いいじゃないか。夜の学校に、規則は意味ないだろ?それに〜今まで忙しかったんだ。一服くらいさせろよ」

前田の言葉で、九鬼は察した。

「生徒が…飛び降り自殺をしたそうですね」

「ああ…」

前田は再び煙草を喰わえ、大きく吸い込むと、空に向かって煙を吐き出し、

「でも…お前は生きていた。よかったよ。1日に、生徒が2人も死んだら…後味が悪いからな」

目だけを九鬼に向けると、微笑んだ。

「飛び降り自殺した生徒は、どうなりましたか?」

九鬼は一歩前に出た。

「勿論、即死だよ。警察の検証では、自分から飛び降りたということになっている」

「!?」

九鬼は、眉を寄せ、

「自殺の原因は、何ですか?」

「さあ〜な。自殺するやつの気持ちは、わからんからな」

前田は、煙草をまた吸った。