「あ、あのお〜」

しばらく無言で歩いていた輝と理沙。 だけど、そのプレッシャーに堪えられずに、輝は口を開いた。

「家は…何処なんですか?」

その言葉に、俯き加減で歩いていた理沙は突然…空を見上げた。

「うん?」

その動きに誘われて、輝も空を見上げた。

そこには、綺麗な満月があった。

「月が…家って…そんな訳はないよな。アハハハ」

笑って何とか和まそうとした輝が、隣に視線を戻した時には、そばに理沙はいなかった。

「!?」

慌てて探す輝の耳に、前から理沙の声が飛び込んで来た。

「ここまでで結構です」

正門の前に、理沙はいた。

「ありがとうございます」

頭を下げると、正門を潜り、左へと曲がった。

「え!」

輝は、唖然とした。今いる場所から、正門までは一直線だが、五十メートルはある。一瞬で行ける距離ではない。

「あ、あのお〜」

軽くパニックになる輝の横を、後ろから高坂が走り過ぎた。

「舞!」

カードを耳に当て、部室にいる舞に叫んだ。 彼女が操作していた式神の方が速いはずだ。

「ぶ、部長!そ、それが!」

「どうした?」

「し、信じられないんですが…」

舞の目の前にある画面に、ロストの文字が浮かぶ。

「み、見失いました!」

「何!?」

ちょうどその時、正門を潜り抜け、外へと出た高坂は、理沙が消えた方を見た。

駅までの一本道に、曲がるところはない。

それなのに、誰も歩いていない。

「どこに消えた!?」

高坂は一応、駅までダッシュした。


「え…な、何?」

状況が理解できない輝は、頭を抱え、目が泳ぎ…その場でただ、狼狽えた。

その時、輝が月を再び見上げたならば…気付いたであろう。

満月を一瞬…覆い隠すだけの巨大な翼を広げた影が通り過ぎたことを…。



「な!」

その頃、校内を探索していた九鬼は…上空から感じるプレッシャーに、廊下に崩れ落ちていた。

しかし、両手をつけても堪えられない程の力は…ほんの一瞬で消えた。

「馬鹿な…」

九鬼はしばらく、動けなかった。