「何者だ…あの教師は?」

遠ざかってから、激しく動く心臓を押さえながら、高坂はとにかく呼吸を落ち着けることにした。

「部長!」

追い付いた輝が、中庭から西校舎に入ろうとした。

「輝!」

高坂は少し、声を荒げた。

「はい!」

驚き、思わず足を止めた輝。

高坂は、大きく深呼吸をすると、一気に西校舎から出た。

「新聞部の部室に行くぞ」

それだけ告げると、中庭からグラウンドへと全力で走り出した。

「せ、先輩!」

訳がわからないが、仕方なく…輝はまたあとを追いかける。

夜の戸張が落ちて、真っ暗になった校舎内を、2人は全力疾走していた。




「一体…何が起こっている」

保健室から出た九鬼は、まっすぐに生徒会長室に向かった。

そこには、九鬼の安否を心配していた生徒会のメンバーが、まだ帰宅せずに集まっていた。

「会長!」

九鬼が生徒会室の扉を開けた瞬間、目を腫らした桂美和子が、泣きながら抱き付いてきた。

「美和子さん…。心配かけたようね」

副会長である美和子をぎゅっと、九鬼は抱き締めた。

そして、その後…美和子から、今朝から大月学園に起こった事件を説明して貰った。

自分が時計台の上に磔になっていたこと…。そして、高木という生徒が飛び降り自殺をしたことを。

「!?」

九鬼は絶句した。

自分のことは、仕方がない。油断した自分が悪いのだ。まだ生きているだけ、有り難かった。

問題は、生徒の自殺である。

「先程…警察の現場検証が終わりました。詳しいことは、私達には教えてくれませんでしたが…教師には、他殺の可能性は薄いと伝えていたそうです。もたれていて、金網が外れた訳でもないですし…やはり、自ら飛び降りたというのが、今のところ真実に近いと」

美和子の報告に、九鬼は顎に手を当てて考え込んだ。

(自殺…?)

確かに、それが確実な答えかもしれない。

しかし、九鬼の頭に…自分を襲った相手の微笑みがなぜか、よみがえった。