「部長!」

輝は、高坂の背中を追いかけていた。人一番体力がなく、体が弱いはずなのに…こういう時だけ、人一番早い。

高坂の姿は、もう西校舎の中に入り、見えなくなっていた。

「ったく!」

軽く毒づきながら、スピードアップをしょうとした輝の目の端に、微笑む少女の顔が映った。

「…うん?」

何か心に引っ掛かるものを感じて、思わず足を止めた。

「え…」

しかし、立ち止まった時には…少女の姿はなかった。

ほんの一瞬の出来事なのに、なぜか…微笑む顔が、脳裏に焼き付いた。


「生徒会長!」

その頃、一足早く保健室についた高坂が扉を開けていた。

「!」

しかし、そこに…誰もいなかった。

少し唖然としていると、後ろから声をかけられた。

「もう下校時間は、とっくに過ぎてるはずですよ」

「!?」

高坂は、その声をかけられる寸前、背筋に悪寒が走ったのがわかった。

(死!)

無意識が、高坂に伝えた。次に起こりうる出来事。

その瞬間、高坂は保健室内に飛び込むと、扉の方に振り向いた。

「あら〜恐い」

強張った顔を向ける高坂を見て、女教師の姿をしたリンネが驚くような顔を作った。

「あ、あなたは…」

教師であるリンネの姿を見て、ほっとするはずが…まだ意識の底は警戒を呼び掛けていた。

リンネは、そんな高坂に微笑むと、

「保健室の先生なら、帰られたわ」

優しい口調で告げた。

「そ、そうでしたか…」

高坂も何とか、平静を装うと、リンネに向かって頭を下げた。

「失礼します」

そのまま、息を止めながら、扉の前に立つリンネの横を、一気に通り過ぎた。

出入り口は、そこしかないからだ。奥に窓があるが、そこから出るのはおかしかった。

何とか廊下に出て、早足で立ち去ろうとした高坂の背中に、リンネは微笑みを崩さずに声を発した。

「勿論…生徒会長もね」

「!?」

高坂は、足を止めた。見透かれたような言葉に、

「あ、ありがとうございます」

何とか言葉を絞り出すと、高坂は歩き出した。

十字路に来ると、すぐに左に曲がり、しばらく歩いてから、激しく息をした。