そんな考え事をしていると、いつのまにか…隣に、浩也が立っていた。

「カレン…」

カレンが驚く暇もなく、浩也が訊いた。

「これは、自殺じゃないよ」

「え?」

驚くカレンに、浩也は言葉を続け、

「それに、人間がやったんでもないよ」

自分の言ったことに頷いた。

「な、何を根拠に?魔物は、人間をこんな殺し方をしない。確かに、いたぶることはするが…。突き落とすなど…まるで、恨みでもあるような…」

「僕は、知ってる」

浩也は、屋上を囲む金網を睨み、

「人間から発生する…魔物を」

「!?」

カレンは、目を見開いた。

「魔獣因子…」

なぜ…その単語が出たのか、わからない。 なぜ…知っているのかは、わからない。

「そ、それは…確か…」

カレンは、考え込んだ。

「もしくは…人間から創ったのかもしれない」

浩也はそう言うと、カレンから離れた。

「人間から、創っただと!?」

カレンは絶句した。

「魔物は、人間から見たら…純粋な悪だ。だけど…人間にとっての人間は…」

浩也は、カレンに背中を向けると、虚空を睨み、

「不純な悪だ」

歩き出した。

「人間から創られた魔物?」

自分で口にして、カレンはぞっとした。

昔…通っていた学園での同級生の視線を思い出した。

自らを偽って生きていた頃のいじめ。

まあ…簡単に殺せると思っていたから、恐ろしくはなかったし、魔神や女神と対峙した時の絶望感とは比べるまでもなかった。

(だけど…)

カレンは、知っていた。

力だけが、恐怖ではないと。

(人間の冷たさは、異質だ)

自らも人間ではあるが、カレンはその異質さを理解していた。

(つまり…そんな人間の負の部分を持った…魔物が犯人ということか…)

カレンは、深く息を吐くと、

(…と言うことは、飛び降りた生徒と関わりのある相手?魔物が、この学園に忍び込んでいる?)

カレンの頭に、数人の候補が浮かんだ。

しかし、その中に…人に恨みなんてものを抱くようなものはいないように思えた。