「ムカつく!ムカつく!」

興奮状態の緑は、使いものにならない。

高坂は横目で、輝を見つめると、

「お前は、来い!緑は、帰れ!」

すぐに前を向き、走り出した。

「ぶ、部長!」

輝はちらりと緑を見た後、急いで走り出した。ここにいてはまた、とばっちりをくうと判断したからだ。

「今日は、忙しないなあ〜」

高坂の後を追いながら、輝はため息をついた。





同時刻。

飛び降り自殺があった西校舎のグラウンド寄りの側面に、カレンはいた。

遺体は運ばれており、警察の現場検証が行われていた。

(この学校で…自殺)

疎らになってきた人混みの向こうから様子を見ていたカレンは、唇を噛み締めた。

(あり得んだろ!)

生徒が飛び降りた現場である屋上を見に行きたかったが、早くも警察が屋上への階段を封鎖していた。

(無理を言えば…通してくれるか?)

元防衛軍の安定者であるジャスティンの威光を使えば、何とかなるかもしれない。

しかし、魔物関係ではなく、人間同士の争いは…基本警察機関に任されていた。

(防衛軍の方が、遥かに権限があったとはいえ…今は、実質的には存在しないからなあ)

カレンは頭をかくと、諦めた。

(単なる自殺じゃないとしても…何の目的だ?)

基本的に、魔物の場合…ただ殺すことはない。 第一目的は、食べることだからだ。

その理論に外れるのは、上級魔物である。時に彼らは…人間の戦士を、戦う価値のある存在としてとらえてくれる。

と言っても、屋上から突き落とすような幼稚なことはしない。何かの駆け引きで使うことは、あるが…。

(戦士でない一般人を食わずに…殺すことはしない)

カレンは、屋上を見上げた。

(だとしたら…この自殺は、他殺だとしても…相手は、人間…か?)

カレンの中で、何かが引っ掛かったが…それが、何かわからなかった。