「もう大丈夫だと思うよ」

浩也は九鬼に微笑むと、ベットから離れた。

保健の先生はもう帰宅したのか…待っても来なかった。

だから、仕方なく手を当てて、無意識の治癒魔法を施したのだが…それが、どんな治療よりも強力であると、浩也は知らない。

「あ、あのお〜」

保健室を出ていこうとする浩也の背中に、九鬼は声をかけた。

「うん?」

振り返った浩也に向かって、九鬼は頭を下げた。

「ありがとうございます」

「いえいえ〜どういたしまして」

浩也は、笑顔を向けた。

その屈託のない笑顔に、思わず見とれてしまった九鬼。

「え…あ」

言葉がでない。

そんな九鬼に、浩也は最後に…こう告げた。

「多分…こういうことが、僕の仕事なんだ」

「え」

「お大事に」

浩也は前を向くと、保健室から出た。

「ふう〜」

少し深呼吸をした後、浩也は廊下を歩き出した。





「何だって?」

特別校舎まで来た高坂は、苛つきが止まらない緑と、顔を腫らした輝から事情を聞いて、ため息をついた。

「ムカつく!」

それしか言わない興奮状態の緑はほっておいて、半泣きの輝に訊いた。

「では…生徒会長は、無事なんだな?」

緑の小競り合いの話より、一番大事なことを確認した。

「は、はい…。多分、今は、保健室に…。さっき、部長とすれ違いましたよ」

輝の言葉に、高坂ははっとした。

(そう言えば…さっき、場所をきかれたな)

あまりにも夢中で、訪ねてきた相手を見ていなかった。

「了解した。俺は、保健室に向かう。お前達はもう帰れ」

そう2人に告げると、背中を向けた高坂を、輝が慌てて止めた。

「そ、そう言えば、部長!何かあったんじゃあ」

高坂は足を止め、

「それは…保健室に行ってから」

と言ってから、少し考え込んだ。

「部長?」

輝は首を傾げた。