「きな臭いわね…」

出来上がった原稿をチェックしながら、新聞部部長如月さやかは、ため息をついた。

どこから仕入れたのか…部室の奥に陣取る豪華な応接セット内で、革張りのソファーに深々ともたれながら。

先日の月影ソルジャーもどきによる学園内襲撃。さらに、理事長室の惨劇を受け、新聞部としては、記事にしなければいけないと思い、文字に起こしてみると、肝心なことがぼけていた。

3人の転校生に、新任の女教師…。

「彼女らは…只者ではないわ。それに…」

さやかは出来上がった原稿を前にあるガラスのテーブルに置くと、眉間をマッサージし、

「天空の女神…」

すぐに指を離すと、ため息をついた。

普通ならば、国家レベルの問題である。

「この学園の特殊性は、理解していたけど…ここまで来たら…異常だわ」

わかる範囲で、詳しく書いてもいいが…さやかの頭に不安が残る。

特に…女教師の顔が、ちらついた。

「あの顔…どこかで、見たような」

さすがのさやかも、騎士団長の1人である…リンネが、潜入しているとは思わなかった。

その事実に気付いたらならば、学校から逃げなければならなかった。

カードシステムの崩壊と、防衛軍の壊滅は…各種通信機能をまったく機能させなくなり、情報の流通を止めた。 便利なものに頼り過ぎた人間は、自らの足で探すことが億劫になっていた。

唯一、カードシステムの通話機能だけが生きていた。

「それでも、まあ〜生きていけるんだから…人間は、どれだけ贅沢だったのか」

そんなことを考えている時、ふと…目が行った窓。

それは、仕組まれていたのだろうか。

新聞部室からグランドを挟んで見える西校舎から、1人の生徒が飛び降りるのが、見えた。

「え!」

驚いて立ち上がったさやかの耳に、どすんと重い音が聞こえてきた。

「部長!定例会の件ですが…」

その時、新聞部の部員が扉を開けた。

窓の向こうを見つめて、驚いているさやかに気付き、部員も振り返った。

すぐには、気づかなかったが…やがて、倒れている生徒に気付き、悲鳴を上げた。