「…」

カレンは、何も聞き返すことをしなかった。

嘘だと思ったが…少し悲しげで、何とも言えない横顔を見せる浩也を見ていると、何か理由があると思った。

とても、複雑な思い。

カレンは少し息を吐いた後、頭をかき、

「真弓を保健室に運ぶぞ。ここにいては、体に悪い」

膝を畳につけると、九鬼を抱き起こそうとした。

「ま、待って!僕がやるよ!」

慌てて、浩也はカレンの腕から、九鬼を受け取り…お姫様抱っこの形で抱き上げた。

「いくぞ」

カレンと浩也が、扉の方に体を向けた時、廊下から緑が飛び込んで来た。

「は、は、は、は」

激しく息を切らす緑を見て、カレンは目を細めた。

「情報倶楽部の女…」


緑は、カレンと浩也よりも、抱き抱えられた九鬼を確認すると、カードを取り出した。

「生徒会長!見つかりました!」

高坂に報告する緑の横を、カレンと浩也がすり抜けようとする。

「待て!」

緑はカードを耳に当てたまま、木刀で道を塞いだ。

高坂との通信が切れると、緑は横目で2人を睨んだ。

「お前達が…助けたのか?」

少し威圧的な緑の口振りに、カレンは軽く舌打ちし、

「どうして、あんたは…好戦的なんだろうな」

顔を向けた。

「それは…お前達が、得体が知れないからだ」

緑はギロッと、カレンを睨んだ。

「やれやれ…」

カレンは軽く肩をすくめると、口許に笑みを浮かべ、

「自分が弱いからって…得体が知れないは、ないんじゃないの?」

少し挑戦的に言った。

「な、何だと!」

その言葉に、緑はキレた。 木刀を引くと、改めて構え直した。

「また…負ける気?」

クスッと笑うと、カレンは全身の力を抜いた。

2人の戦いが始まる中、浩也は九鬼を抱き抱えたまま、廊下に出た。

そして、ゆっくりと…九鬼の体を揺らさないようにしながら、歩き出した。