「――ところで、赤星さんはどうして、ここに?」

美亜は笑みを止めると、浩也に訊いた。

「う〜ん」

美亜の質問に、浩也は悩み出した。

「…」

そんな浩也を、じっと見つめる美亜。

「に…匂いかな?」

自分で口にしておいて、首を傾げる浩也に、美亜は心の中でにやりと笑い、

(バンパイアの本能が…血を嗅ぎ付けたか)

頷いた。

「阿藤さんは、どうしてここに?」

浩也は無邪気に、美亜に同じ質問を投げ掛けた。

「うーん」

美亜も同じように、悩むふりをしてからこたえた。

「同じかな?」

満面の笑みを浮かべ、浩也を見つめた。

「そ、そうだよね!」

浩也はなぜか、顔を真っ赤にして逸らしてしまった。

どうしてだろうか…浩也の心臓の鼓動が、激しくなった。

そんな浩也を…ずっと見ていたくなったが、美亜は突然、笑顔を崩した。

遠くの方から、この階に向かって上がってくる足音を、耳がとらえたからだ。

(チッ)

美亜は心の中で、舌打ちした。

本来ならば、校舎に近付いただけでわかるはずだった。

しかし、浩一の姿を見て動揺してしまい、浩也の時と同様に、気づかなかったのだ。

「赤星さん」

美亜は、真剣な顔を浩也に向けると、

「あたし…どうしても、行かなくちゃいけない用事あるんです」

すがるように言い、

「一応、九鬼さんの容態を診ましたけど、怪我は大したことはありません。気を失っているだけですから」

困ったような顔を浮かべる美亜を見て、浩也は真っ赤になりながらも、

「わかりました。任せて下さい」

胸を叩いた。

「ごめんなさい」

美亜は頭を下げると、部屋から飛び出した。

扉を閉め、テレポートするのと、カレンティアナ・アートウッドが五階の廊下に姿を見せるのは、ほぼ同時だった。

「赤星!どこだ!」

カレンは叫びながら、廊下に並ぶ教室を順番に覗いていく。

「匂いがするって、どこにいきやがった!」

浩也がいる部屋は、一番端の為…カレンがたどり着くには時間がかかった。