一瞬の斬りつけならば、日本刀がいいが…力任せで、押し合うには適していない。

剣司は刀こぼれを気にしながらも、構え直した。

そんな剣司を睨み付け、グレイは叫んだ。

「俺は、操られてなどいない!今はな!」

「どういう意味だ?」

剣司は眉を寄せた。

「特区にいた人達はみんな!周りの人間に気を使って、生きてきた!なのに何故、最後は…爆弾で殺されなければならないのだ!それも、実験の為に!俺達に、お前達のモルモットではない!」

ジャスティンは前に出た。怒りからの横凪の剣を、剣司に叩き込んだ。

剣司は受け止めるのをやめ、後ろに下がった。

日本刀が折れると判断したのだ。

「お、お前は…そうだったのか…」

グレイの素性を知らなかった剣司は、初めて特区の出身であることを知った。

「だが!それとこれは、話が違う!」

剣司は右手を引くと、刃を地面と水平にした。そして、刃の真ん中に左手を添えた。

突きの体勢に入った剣司は、グレイを見つめ、

「女神が誕生すれば、多くの人が死ぬ!」

「それ以上の同胞を殺しておいて、何を言うか!」

突きの体勢を見ても動じることなく、グレイから向かってきた。

「クソ!」

言葉での説得を諦めた剣司は、攻撃方法を即座に変えた。

突きのカウンターを狙う。

グレイの剣が振り落とされる寸前に踏み込み、腕を突きだす力も加えて、確実に当てるつもりだった。

しかし、グレイは剣を上段から、同じ突きへと変えたのだ。

合わせるタイミングも違った。

それだけではなかった。

グレイの突進力が、予想以上だったのだ。

不動によって、脳に植え付けられた火種が、強制的に限界以上の運動神経を引き出していた。

「チッ!」

舌打ちとともに、剣司は両足で床を蹴った。しかし、腸のように、でこぼこである足場は勢いを刀にのせるには適していなかった。

タイミングが取りづらいと頭の端で判断したが、剣司はやめなかった。

2人の刃が交差した。