「舐めるな!」

左右から進路を狭めるゴブリン達は、一斉に棍棒を振り上げた。その動きが、進路を塞ぐスピードを一瞬遅くした。

その隙を見逃す剣司ではなかった。

一気にスピードを上げ、最後はスライディングのように、閉まりかけた入り口に滑り込んだ。

「は、は、は」

体力を使ってしまったが、休んでいる暇はない。

入り口内は、ひかり苔が何かがで淡く光っていた。

階段の上は、もっと明るい光が灯っていた。

「いくか!」

それでも、30秒程は休んでしまった。

剣司は、鞘に納めた日本刀を無意識に確かめると、階段を駆け上がった。

(先程のやつは…魔神!)

剣司の身に、緊張が走った。

(戦ってはいけない!隙をついて、追い越す)

魔神であるギナムと戦っている場合ではなかった。グレイを止めなければならない。

(グレイを行かす意味があるはずだ)

駆け上がりながら、剣司はギナムの背中を探した。

上に続く階段は、螺旋状になっており、数メートル先は見えなかった。

慎重に走りながら上がっていく剣司は、体を射ぬくような殺気を感じ、足を止めた。

右に曲がっていく階段の先に、ギナムがいる。

そう確信した剣司は、刀に手をかけた。

居合いの体勢に入りながら、階段を駆け上がった。

階段を曲がった瞬間、横凪の斬撃が、目にもとまらない速さで放たれた。

しかし、刀には、何の手応えもなかった。

遅れて聞こえた羽音が耳に飛び込み、今度は後ろからした。

「!?」

曲がった先は、一階になる吹き抜けの空間だった。

居合いの為に踏み出した右足は、階段から出ていた。

「なかなかの速さでした」

剣司はその声にはっとして、後ろを振り返った。

下の階段に、腕を組んだギナムがいた。紫の翼が、少しだけ開いていた。

「しかし」

ギナムは下から、剣司を見上げた。

「所詮…人間の速さです」