「お持ち申しておりましたよ」

地上に見せる姿と違い、地下に埋まった部分は、強固な岩石で造られた砦の最下部。

洞窟から続いている地下階段を登れば、地上の砦内部に入ることができる。

普段は、蜂に似た魔物達に守られている入り口も、簡単に入れるように、道が開いていた。

その前に立つギナムは、洞窟内の温度が一気に上がったことに気付いていた。

熱風の先から、全力で走ってくるグレイの姿を認め、口元に笑みを浮かべた。

「これで、最後のマスターピースが揃う」

「うおおおっ!」

血走った目をしたグレイは剣を抜くと、ギナムに斬りかかってきた。

「やれやれ…」

ギナムは、ヒョイと横に避けると、グレイに道を開けた。

「そんなことをしなくても、歓迎したものを」

グレイは追撃をかけることなく、砦内へ階段を駆け上がっていった。

「まあ〜いいですか…。できるだけ狂った方が、身の為ですし」

ギナムはゆっくりと、グレイの後を追おうと、砦内に体を向けた。

「グレイ!」

その時、日本刀を持った剣司が入り口向かって、走り寄ってきた。

「…雑魚が」

ギナムは振り返ることさえしないで、階段を上りだした。

「グレイ!」

砦内の入り口に、飛び込もうとすると、上から蜂に似た魔物が飛びかかってきた。

「邪魔だ!」

横凪の斬撃が、魔物を切り裂いた。

「キイイ!」

周囲の暗闇から、人間と同じ大きさをしたゴブリンの大群が現れた。

茶色の肌に、棍棒を持ったゴブリンを見た剣司は舌打ちすると、まともに迎え撃つのは、時間を浪費すると判断した。

向かってくる速さから、自分の全力の方が速いと思い…剣司はまっすぐに、砦の入り口に向かって走る。

しかし、ギナムが下から見えなくなると、開いていた入り口が小さくなっていくのがわかった。

扉や門のように閉まるのではなく、開いていた傷口が閉じていくような感じに似ていた。

「クッ!」

剣司は走りながら、剣を鞘に納めた。両手を振り、走ることだけに、全力を注いだ。

ゴブリン達の数は多く、入り口の左右の闇から、進路を防ごうとする。