「あなたは一体…」

ティアナから離れ、間合いを取った男から、殺気は消えていなかった。

かけているサングラスは、暗見機能を備えているようで、身につけているものも、黒で統一されていた。

(暗闇で、戦うことを前提としている)

ティアナは、男が殺すつもりで来たことを実感した。

「こいつの名は、阿倍剣司。同じギルドの仲間だが…暗殺と密偵を生業にしている為、めったに姿を見せることはなかった」

グレイは、ティアナの向こうの剣司を睨んだ。

「それに…日本に帰っていると聞いたが…どうして、ここにいる」

グレイの言葉に、剣司はサングラスを外した。

「それは、こっちの台詞だ。お前こそ、どうしてここにいる?」

鋭い眼光が、グレイを射ぬいた。

「俺は、元老院から依頼を受けて…」

「違うな!」

即答したグレイの言葉を、剣司はすぐに否定した。

「俺が…元老院に、依頼されたのだ」

剣司はまた、日本刀に手を添えた。

グレイを睨み、

「裏切り者を殺せとは!」

「裏切り者だと!」

グレイは、剣司に向かって叫んだ。

「俺が、何をしたというのだ!」

「しらばっくれるな!今、創れている女神が、誰なのか知らぬはずがあるまいて!」

その言葉に、ティアナは剣司ではなく、グレイを見た。

「!」

絶句して、何も言えなくなったグレイに向けて、剣司は一歩前に踏み出した。

「問答無用だ!人類の裏切り者が!」

高速で鞘から抜かれた日本刀が、グレイの首の頸動脈を狙う。

「話す余地はあるわ」

その抜刀を、分離したライトニングソードをトンファーに変えて、ティアナは受け止めた。

「な!」

必殺の間合いから繰り出す居合いを、何度も防がれたことで、剣司はティアナの実力を認めた。

ティアナは、右トンファーで日本刀を受け止めながら、左のトンファーでもグレイの剣を動けないように押さえていた。

「あなた方は、どちらも…元老院に依頼を受けたと言ったわね。その証拠は?」

「俺は見せただろ?」

グレイは剣を引くと、はいているズボンのポケットから、依頼状を取り出した。