「とにかく…今のうちに進みましょう」

ティアナは、ライトニングソードを握り締めると、川沿いを歩き始めた。

見つかる危険がある為、ライトニングソードの発光をやめた。辺りは暗闇な包まれたが、水の流れる音と慣れてきた目が、行く先を示してくれた。

「…」

グレイも歩き出した。

案内人としての役目は、砦が見えた時で終わっているが、真の目的は…砦の中にあった。

魔物の気配がない為、肩にかけた鞘に剣を納めようとした時、闇の中で光が走った。

それは一瞬の出来事だった。

「!」

瞬きよりも速い斬撃が、グレイの首を斬り裂いた…はずだった。

その斬撃よりも速く差し出されたライトニングソードが、日本刀を受け止めた。

「!?」

サングラスをかけ、暗闇と同化した黒のスーツを着た男の姿を、ティアナの瞳がとらえた。

スーツの男は、間合いを取る為に、後方に下がった。

日本刀を腰につけた鞘に戻すと、少し前屈みで構えた。

(居合い!?)

ティアナは、相手の構えで次の攻撃を悟った。

ライトニングソードには、鞘はない。

(しかし!)

ティアナは、上段に構えた。

こうを描く居合いの軌跡に、振り下ろす斬撃で迎え撃つ。

そのつもりだった。

「剣司か…」

ティアナとスーツの男の間に流れる緊張の糸が、グレイの声で緩んだ。

「知り合い?」

糸が緩んだのは、ティアナだけだった。

その一瞬の緩みを、スーツの男は見逃さなかった。

人の目ではとらえることのできない速さで、鞘から抜かれた刀が、ティアナの上半身を切り裂いた。

「ティアナ!」

絶叫するグレイ。

「フン」

と笑ったスーツの男は、抜いた日本刀を鞘に納めようとしたまま…その場で崩れ落ちた。

「残像か」

グレイは、切断されたティアナの体から血が流れていないことに気付いていた。

スーツの男が倒れた向こうに、ティアナが立っていた。

(目に見えないというレベルではない)

グレイは、戦慄を覚えた。

明らかに、スーツの男の抜刀の方が早かった。

それなのに、ティアナは男の後ろにいたのだ。