最初は、水の魔物がいるかと思い、ライトニングソードを突き刺そうと思っていたが、ティアナはやめた。

カードの灯りで、照らした水面の透き通った美しさに、気付いたからだ。電流を流し、そこにいるかもしれない生物を殺すのは、忍びなかった。

膝を落とし、水に手を伸ばそうとするティアナに、後ろからついて来ていたグレイが、叫んだ。

「やめろ!」

しかし、ティアナは水に手をつけた。

「この川は、おそらく…魔界から流れている!絶対に汚染されているぞ!」

グレイの言い分もわかっていた。人間に害し、異形の姿をした魔物達。彼らが住む魔界は、汚染され…けがれていると。

だけど、ティアナの考えは違った。

(彼らが、自然を汚したところを見たことはない)

ティアナは両手をつけ、お椀をつくると、水を汲んだ。

(自然を汚すのは、人間だけだ)

そして、一口飲んだ瞬間、ティアナはあまりのおいしさに感嘆のため息をついた。

「おいしい」

「え!」

驚くグレイの声に微笑むと、ティアナは確信した。

(魔界は、汚れていない)

今はまだ…踏み入れたことのないところだが、ティアナはいずれ…その奥まで行く覚悟を決めていた。

ティアナは立ち上がると、グレイに向かって、話しかけた。

「こんな時だけど…いえ、こんな時だからこそ、あなたにききたいことがあるの」

ティアナはゆっくりと、振り向き…まっすぐに、グレイを見つめた。

「出会ってから、今まで…あなたを見ていた。そして、さっきの戦いで、あなたから…感じたもの」

ティアナは、グレイを見つめ、

「あなたは、どこか…死にたがっている。その感じは、砦に近付く程、強くなっている気はするんだけど…あたしの気のせいかしら?」

「!」

グレイは絶句した。何も言えなくなってしまった。

(俺が…死にたがっている!?)

確かに、先程の蜂に似た魔物との戦いも、ほとんど防御を考えてはいなかった。

(そうか…)

グレイはフッと笑ってしまった。

(死んだら、楽になるな)