大陸一の歌手として有名であるが、実は…素手で竜を倒すことを目的とした闘竜拳の使い手でもあった。

姉と同じで、非凡な才能を持つジュリアンは、十五歳にして、闘竜拳の免許皆伝の実力を持っていた。

ジャスティンは小さい頃から、よくジュリアンと組手をしていた。

ほとんど勝てなかったが…師匠をもたず、独学で強くなってきたジャスティンにとって、ジュリアンとの組み手で体に染み付いたテクニックは多かった。

特に、拳で相手の肉体の細胞を破壊することを目的にした…ジュリアンの正拳突きは、ジャスティンの必殺技の一つになっていた。

もちろん、ジュリアンは組み手で、真剣に叩き込むことはしなかったが、真似するにはちょうどよかった。

しかし、ジュリアンが歌手で有名になると、組み手をする機会は激減した。


「あの子も、あたしも忙しいのよ」

ティアナは苦笑し、

「それに…止められているみたいよ。歌手の手が、ゴツゴツしているのは、おかしいって」

「何言ってるですか!ジュリアンさんの肉体は、芸術ですよ!鍛え上げられた芸術!」

ジャスティンは、拳を握りしめ、

「でも…今なら、いい勝負をできると思うんです」

自らの力を確かめた。

そんなジャスティンの様子を、後ろから見つめるクラーク。

「さあ〜。どうかしら?」

ティアナは振り返り、ジャスティンをじぃ〜と見つめた。

「か、勝てますよ!た、多分、百回に…一度くらいわ」

突然のことで避けることができなかったジャスティンは、顔を真っ赤にした。

「どうかな?」

悪戯っぽく言うティアナに、前を歩くグレンが訊いた。

「あんた…妹がいるのか?」

前を向いて、決して振り向かないグレンの背中に、ティアナは目を向けた。

「ええ」

頷いたティアナに、グレンは前を向いたまま…笑い、

「俺もいたんだ…昔ね」

「昔?」

「ああ…」

会話は、そこで終わった。

なぜならば、それ以上…きける雰囲気ではなかったからだ。

ティアナは、グレンの背中から…底知れね悲しみを感じていた。