王宮にいた人神が生まれたのが、アガルタの民の中からだった。彼らは、元老院に国をおわれたが、その代わり…特区と言われる優遇された地域に住み、税金等を免除されていた。

そのことが、税金を納めている周囲の人々の反感を買うことになる。

日本の江戸時代が、やったようなことを…元老院はアガルタの民を使って行ったのだ。

つまり、民衆の間に身分の差や不公平をつくることで、その身分をつくり与えたはずの支配階級に目がいくことを避けたのだ。

民衆は、民衆内で争う。

アガルタの民には、特区という土地と税金を免除した。

その代わり…彼らは自分の国を持たないし、ほとんど特区から動けない。

他の民衆は、どこでも行けたが、税金をとられていた。住むところも、自分で探さなければならない。

彼らは互いを不平等といい…罵りあった。

そんな状況を作ったのは、誰かと論じることなく。

しかし、近年…特区から出る若者が、多かった。外にある自由に憧れて。

元老院も、若者の流失に対しては何も言わなかった。

それは、互いのいがみ合いが安定して来ていることもあり、若者が外に出るくらいは大丈夫と判断したからであろう。

しかし、そのある意味…元老院の黙認は、新たなる悲劇を生むことになった。

外に出た…アガルタの若者の自殺である。



「…」

轟はカップをカウンターに置いた後、無言で中の黒い液体を見つめた。

そんな轟を見つめながら、店員は手を休めることなく、洗い物を始めた。

「あの子に限って…早まることはないと思うけど」

「自由か…」

轟の口から出た言葉に、店員は答えた。

「自由だから…すぐに、幸せになるわけでもないわ。守ってくれる者がいなくなれば、すべてのものが自分に直接降りかかる。あなただって、そうでしょ?」

店員の言葉に、轟は再びカップを手に取った。

一口飲んだ後、

「俺は…自然の一部です。他の者がどうとらえようが…関係ありません。この世に、同じ風が吹かないように、人も同じ者などいない」