ランの口元から、笑みが消えない。

「何のことかしら?」

惚けて見せるジェーンを、ランは顎を引き、上目遣いで見つめた。

「それとも…核がほしいのかな?」

口調は優しいかったが、ジェーンを見つめる目は鋭かった。

「…」

ジェーンもしばし、ランを見つめてしまった。心を読もうとたが、まったく読むことはできなかった。

(チッ)

心の中で舌打ちすると、両手を広げた。

「何言ってるの?あんな巨大で、危険なもの…いらないわ」

そして、また肩をすくめると、後ろ手でドアノブを掴み、回した。

「邪魔したわね。あなたも早く逃げた方がいいわよ」

「わざわざ…ありがとう」

ランは頭を下げた。

廊下に出ると、ジェーンはフゥと息を吐いた。

(仕方ないわね)

人波に沿って歩きながら、ジェーンは考えていた。

(どうせ潮時だったわ。この体を捨てて、別の肉体に転生しなくちゃ)

程なくして、人波から離れたジェーンは…目のつかない所でテレポートして、本部内から消えた。



「やれやれ…」

ランはジェーンが出ていくと、同時にパソコンを置いているディスクの引き出しを開けた。

中には、鞭が入っていた。

「ここは…破棄するか。バックアップは取れたしな」

ランは鞭を一振りして、パソコンを破壊すると、部屋から出た。

「この日を想定していてよかったよ」

青ざめた顔で走る人々と違い、ランは白衣に両手を突っ込みながら、悠然と歩いていた。

「さてと〜。救世主様に、届けましょうかね」

白衣のポケットに入れてあるものを確認しながら。