「フン」

三メートル近くある巨体で空気を切り裂きながら、ギラは石の通路を歩いていた。

「久々の我が家とでもいうべきか」

ギラは、何の装飾もない壁と先の見えない回廊を見つめた。

こんな味気ない廊下でも、少し安心している自分がいることに気付いた。

闇の女神の復活が阻止されたことで、魔王軍は再び元の鞘に戻ろうとしていた。

「しかし…許していいものなのか」

ギラは、最近伸ばし始めた顎髭に触れた。

闇の女神と結託し、新たな魔王軍を編成しょうとしたリンネを簡単に許していいものだろうかと、ギラは悩んでいたのだ。

今は、魔王不在の時。

さすれば、例え騎士団長と言えども、行動は慎むべきである。

ギラの考えが、リンネに制裁をに変わろうとした時、後ろから声がした。

「あやつは、特別!今回のことも、王は許されるだろう」

まるで心を読んだような言葉に、ギラは足を止めて振り向いた。

「どういう意味だ?カイオウよ」

ギラの後ろに、同じ騎士団長であるカイオウが立っていた。

「今、口にしたこと以上の意味はない」

カイオウは、後ろで手を組みながら、ギラの横に来た。

「ただ…あやつは、特別なだけよ」

カイオウはそれだけ言うと、ギラを残して歩き出した。

「だから、その意味をだな…」

ギラが、それだけで納得するはずもなく、カイオウに追いすがろうとした瞬間、

カイオウは振り返り、無言でギラを見た。

「!?」

その目には、お主もわかっておるじゃろ…だから、口にするなと、ギラを制する力があった。


「チッ!」

ギラは舌打ちした。

もう忘れていたことを思い出していた。

顔をしかめ、思わず視線を外したギラを見て、カイオウは前を向くと、ゆっくりと歩き出した。

去っていくカイオウの背中を、ギラはもう見ることはなかった。

ただ悔しげに、唇を噛み締めた。

「だとすれば…あまりにも、アルテミア様が不憫!」

ギラは、壁を叩いた。

「アルテミア様は…王の娘ぞ!」