「ち、ち、ち…」

鳥の囀ずりに、何とか参加しょうとして、アスカは声を発していた。

どれくらい時がたっただろうか…。吹き抜けになっている壁から、一羽の小鳥が飛び込んで来た。

ぴょんぴょんと跳ねるように、アスカの前まで来た小鳥は、嘴に野花を一輪くわえていた。 それをアスカの前に置くと、また小さく囀ずった。

アスカの目には、花が映らない。だけど、耳だけで小鳥のいる方向を認識すると、両手を伸ばした。

小鳥を探す手が、床に置かれた野花に触れた。

色も形もわからなかったが、アスカは手にした時、鼻腔を刺激した香りに、ゆっくりと顔を近付けた。

「いい香り…」

アスカは自然と微笑み、前にいるだろう小鳥にお礼を述べた。

「素敵なプレゼント…ありがとう」

しかし、アスカがお礼を述べた時にはもう…小鳥はいなくなっていた。

なぜならば、アスカの後ろに、恐ろしい闇が立っていたからだ。

「なぜ…ここに、人間がいる?」

ラルの体は、震えていた。神聖なる王の部屋に、人間がいることなどあり得なかった。

「え?」

ラルの声に驚き、振り返ったアスカの顔を見た瞬間、ラルの全身に嫌悪感が走った。

目の部分の傷が、弱々しい体が…その他すべてに、虫酸が走った。

「その弱き姿!人間という種の弱さ!」

ラルは叫んだ。

「王を惑わす!」

「!」

アスカの全身に激痛が、走った。

その痛みは、目を潰された時の痛みを超えていた。

「あ…」

アスカの胸の辺りに、空洞ができていた。

「人間は、王に近づけてはならない!」

ラルの目が光った。

次の瞬間、アスカの右手がふっ飛んだ。

掴んでいた花が、その勢いで…吹き抜けの向こうに飛んでいった。




「リンネ様」

下の部屋にいたリンネの前に、炎の騎士団所属の魔神が現れ、部屋の前で跪いた。

「各部隊の隊長格、すべて揃いました」

女神ネーナが、リンネを紹介する為に、城の向こうに炎の魔神達を集結させていたのだ。