「王はなぜ、あのような者をそばにおいているのだ?」

玉座の間を出たギラは、隣を歩くサラに訊いた。

「…」

サラはこたえない。しかし、少し不機嫌になったことに、ギラは気付いた。

「…」

ギラも口を閉じると、これ以上話すのをやめた。




「…」

ライは誰もいなくなった玉座の間で、1人黙り込んでいた。

いや、1人ではない。アスカがいた。

静まり返った部屋に、城の外から鳥の囀ずりが聞こえてきた。

「あ」

アスカは小さく声を出すと、鳥の囀ずりが聞こえてくる方に顔を向けた。

ライは横目で、そんなアスカの様子を見ていた。

「…」

無言ではあるが、その頭の中には、大きな疑問が浮かんでいた。

何故…生かしているのか。

(この者は、神などではなかった)

単なる偶像だ。

人の信仰を集める為に、祭り上げられた…脆い人間。

何でもいいのだ。

人が崇めるものなど…。

そこに、対象としてあればいい。


(俺は…憐れんでいるの?)

神として崇められているのに、自由のない女を。

(いや…人間を)

ライは、アスカの様子を見つめながら、人間というものを感じていた。

無知で愚かな生き物。

(だが…しかし)

ライは、目を瞑った。

(俺は…人間から生まれた)

その苦悩が、ライを苦しめていた。

忌み嫌ってもいた。 だから、滅ぼそうと思っている。

しかし、どこかで…憐れみを覚えていた。

(このように…)

ライの瞼の裏に、追放したレイの姿は甦る。

レイは、こう言った。

(人間は、我らの食料。その為だけに存在する。しかし、すべてが美味という訳ではない。我の喉を満たすのは、ほんの少しだ。だから、いらぬものは…家臣にくれてやる)

レイはライに目をやり、

(勿論…お前にもな)

にやりと笑った。