「!?」

赤の王といわれた男の目に射ぬかれると、ムゲは逆らうことができないような感覚に襲われた。


まるで、魔王に見られているように思えた。

今すぐ地に降りて、跪きたくなる。

「阿呆が!」

ムゲは、唇を噛み締めた。

口の端から、一筋の血が流れた。

「こやつは、我の主ではないわ!」

ムゲが翼を広げると、そこから数え切れない黒き羽毛が硬化して、放たれた。

男は、その近づいている羽毛を見ても、避けることをしない。

「貴様のその炎で、燃やすことができるならば!やってみせろ!」

ムゲの翼が羽ばたくと、硬化した羽毛のスピードは増し、数も増していく。

しかし、無数の羽毛は、男に刺さることはなかった。

炎にすら…触れることはなかった。

どこからか飛んできた2つの回転する物体が、すべて跳ね返したのだ。

「なにい!」

羽毛は、ムゲと男の間で虚しく…地上へと落ちていった。

「こ、これは!」

しかし、ムゲが驚いたのは、羽毛がすべて当たらなかったことではなかった。

羽毛を弾いた後、ムゲの周りを威嚇するように飛び回る2つの物体にあった。

「ま、まさか…」

目で、その物体を確認しながら、ムゲは息を飲んだ。

「チ、チェンジ・ザ・ハート!?」

2つの物体は、ムゲの後ろを回るとすれ違い…男の方に飛んでいく。

「そんな馬鹿な!チェンジ・ザ・ハートは、天空の女神専用の武器!」


男は、2つの武器に向かって、手を突きだした。

「どうして!貴様が!!」

ムゲが叫んだ時には、すべてが終わっていた。

いつのまにか、目の前まで接近した男の手に握られたものが、ムゲの胸から背中までを貫いていたからだ。

「ラ、ラ…ライトニングソード…ティアナ・アートウッドの…武器…」

意識が遠退いていくムゲは、自らの力が吸いとられていくのを感じた。

(こ、これが…赤の王)

消滅する刹那、ムゲはフッと笑い、

(確かに…王の力が…備わっている)

納得した。