ティアナはあえて、2人を見ずに言葉を続けた。

「その議論に答えはでない。だけど…人間だけが、生きている訳ではないわ」

「クソ!」

クラークが腕を離すと、ジャスティンも胸ぐらを掴むのを止めた。

「行くわね」

ティアナはまた、歩き出した。

「あなたは!」

クラークは、遠ざかるティアナの背中に叫んだ。

「人が、滅んでもいいというのですか!巨大な力、扱えない力でも!そんな力を使わないと、人間はやつらに対抗できない!」

その叫びに、ティアナは足を止めた。

「少なくとも…あたしは、人が滅んでいいとは思ってない。だけど…」

ティアナは振り返り、

「人間の都合だけで、破壊してもいいとは思わない」

クラークの目を見つめた。

「な」

クラークは絶句し、ティアナの視線から目を背けた。

「それは…綺麗事だ!人間に、世界を気遣う余裕なんてない…」

ティアナはクラークを見つめながら、悲しく微笑んだ。

「そうね…。でも、中には…無理する人間がいてもいいじゃない」

「先輩!」

ジャスティンが、ティアナに駆け寄った。

「行きましょう」

ティアナを追い越し、先頭を歩き出すジャスティンの背中に、微かな声で、ありがとうとティアナは囁いた。 それから、少し早足で歩き出した。

「ク、クソ!」

クラークの足は、すぐには動かなかった。

しばし…足下を見つめ、項垂れてしまった。


クラークがすぐに追って来れないのをわかっていたジャスティンは、前を見つめながら、後ろに来たティアナに向かって口を開いた。

「あいつは…真面目なんです。人間を守る為に。だけど…必死過ぎて、他を見る余裕がないんです。先輩…」

ジャスティンは振り返り、

「あいつほど、正義感が強い人間を…俺は知りません」

「そうね…」

ティアナは頷いた。

「彼ほど…優しい人間は、珍しいと思うわ」


ティアナにはわかっていた。

人の弱さも脆さ…ずる賢さも知っているからこその…敢えての言葉を、ティアナもジャスティンも理解していた。