(お兄ちゃん…)

繭の形をした容器の中で培養液に包まれ…眠る少女。

流した涙も、少女を包む透明の液体に混ざり消えた。


「それにしても…凄いことを考えるものだ」

繭は、一つではなかった。

その中には、それぞれ人間が入っていた。

しかし、中の状態はまちまちだった。表面が溶けているだけでなく、骨だけになっている者もいた。

「人間を滅ぼすのは、我々…魔ではない。人間自身だよ」

繭の中を一つ一つ覗き、感嘆の溜め息をつく魔神の後ろで、紫の翼を畳んで椅子に座っていた魔神が笑った。

「人間同士の憎しみ程、素晴らしいものはない」

「しかしも、その憎しみを集め、新たな女神にするとは!さすがは、ギナム殿!」

興奮気味に話す魔神に、ギナムは首を横に振った。

「その仕組みを創られたのは、王ですよ。私はただ…材料となる人間を選定しただけです」

そして、椅子から立ち上がると、少女の入っている繭に近づいた。

「この人間が…素晴らしい」

繭の表面に手をつけ、

「この中にある液は、人間を溶かし…タンパク質に変えるだけでなく、憎しみという目に見えないものを選定する役目もしている」

にやりと笑った。

「どういう意味ですかな?」

首を傾げた魔神に、ギナムはこたえた。

「培養液に溶ける程度の憎しみならば、意味がないんですよ。溶けることなく、形を保てるなどの強い恨みがないと!つまり!」

「つまり!?」

「この人間の負の感情は、強い!」

「?」

魔神は、さらに首を捻った。理解できなかったようだ。

「そんなに難しくはないですよ」

ギナムは苦笑し、

「ただ…形を保っているだけで、人間のままではありません。目ではわかりませんが、肉体は分解され、再構築されているのですよ。まったく違う存在にね」

繭の中を覗いた。

「後数日で、この人間の肉体は、完全に変わる!その時…人間は新たな恐怖を知るだろう!ハハハ!」

ギナムは、楽しそうな高笑いした。