「新たな女神が誕生するだと!?」

「そのようで、ございます」

不動の報告に、城の離れにいたネーナが驚きの声を上げた。

「やはり、王は…天、地、海をそれぞれの女神で統治するお考えのようであります」

「く!」

ネーナは顔をしかめると、腕を組んだ。彼女の苛立ちにより、離れの温度が急激に上昇した。

普通の人間がいたならば、一瞬で汗だくになり、からからになったことだろう。

「そんなに、苛立つこともないんじゃないの?」

突然、部屋の温度が下がった。

「うん?」

ネーナは声がした方に、顔を向けた。

離れに、微笑をたたえたマリーが入ってきた。

跪く不動の横を、マリーは通り過ぎ、ネーナの前に立った。

マリーは微笑みを崩さずに、ネーナに話しかけた。

「まだ…その女神は、目覚めていないわ。そして…一生、目覚めなければ…いいだけのこと」

クスッと笑ったマリーの少し上目遣いの表情に、ネーナは眉を寄せた。

「あんた…ま、まさか」

「勘違いしないでね。あたしは、何もしないわ。いえ…」

マリーは、ネーナを見た後に不動をちらっと見ると、

「あたし達はね」

満面の笑みをつくった。

「人間にさせる気か?」

ネーナの言葉に、さらに口を歪ませたマリーは背中を向けると、

「何のことかしら?」

惚けてみせた。

「チッ」

ネーナは軽く舌打ちした後、
「不動!」

跪いている不動にきいた。

「その風の女神ってやらがいる場所を守っているのは、誰だ?」

ネーナの質問に、不動は即答した。

「魔神ギナムでございます」

「フン!」

ネーナは、マリーを睨んだ。

その視線を背中に感じたマリーは、振り返った。

「何か言いたそうね」

ネーナの目を見ずに、あくまでもクールでいようとするマリーに、ネーナは少し顎を上げて、言葉を発した。

「やつは、騎士団長に次ぐ実力者!人間が何人かかろうが、勝てるとは思えない」

「そうかしら?」

マリーは笑った。

「き、貴様!」

ネーナの苛立ちは、ピークに達した。

一度は下がった離れの温度が、再び上昇した。