「やつらが、一瞬でいなくなったのです。逆に、民衆の支持を得ることになりますよ。まあ〜水面下ですけどな」

男は、赤いボタンに目をやり、

「建て前では…批判は来るでしょうがね」

にやりと笑った。

「…」

ゲイルは、男の顔をじっと見つめていた。

「数百年のいざこざが…ボタンを押すだけで、解決したのですからな」

「フン…」

ゲイルは男に聞こえないように、鼻を鳴らした。

「そうだ。そうだ」

男はぱっと顔を明るくすると、ゲイルに顔を向けた。

「知っておりますか?その技術を教えた異世界の女が言ってましたよ。彼女の世界で、最初に核を落とした理由の一つに…人種差別があったそうですよ」

楽しそうな男の表情を、ゲイルは冷静に見つめていた。

「猿は、殺しても構わないとね。そして、核を落とされた猿達は、その後…自分達を殺した相手に憧れ、従うようになったらしい。それも、強制ではなく、自ら進んでね」

「…」

ゲイルは頭を下げると、司令室から出た。

「核は素晴らしい!そして、人間は…我らブルーアイズだけが、残ればいいのですよ!他の人間は、人間にあらず!ハハハハハハハハ!」

高笑いをする男を残し、ゲイルは廊下に出た。

「愚者どもが…」

ゲイルは、廊下を歩き出した。

核発射と爆発による世間の騒ぎを鎮圧する為に、廊下は騒然となった。対応に追われる兵士達が走る方向とは、逆を進んでいく。

「だが…」

無表情のままで、ゲイルは心の中で笑った。

(その方が、虫けらを殺すよりも…心が痛まんわ)

廊下の突き当たりまで歩くと、ゲイルはその横にある扉を開いた。

そこは、まだ来客にあたるゲイルに、割り当てられた部屋であった。

「遅かったな」

部屋の中には、甲冑を身に付けた魔神が待っていた。

真ん中で腕を組み、眉間に皺を寄せて立つ魔神の名は、カイオウ。水の騎士団長の1人である。

「ライ様は、ご立腹だよ。いかに、貴様であろうと、許されると思うなよ」