その時、空間が揺らいだ。

陽炎のように。

「な!」

ジャスティンの肩越しに、その様子を見て、絶句するクラーク。しかし、クラークとは違い、ジャスティンは前に一歩出た。

「やはり…いましたか」

陽炎は二本の炎と化した。

一本は、スーツ姿の男に…もう一本は全裸の女の形になった。

「替えのスーツを一着持っていてよかったよ」

スーツ姿の男は、にやりと笑った。

「こ、こいつは!?」

クラークには、見覚えがあった。

「誰だ?」

震えだすクラークとは違って、ジャスティンは首を傾げた。しかし、緊張感は増していた。スーツ姿の男から感じる魔力が、尋常ではなかったからだ。皮膚が、ピリピリと痛んだ。

「習っただろうが!」

ジャスティンの能天気な答えに、思わず呆れてしまったクラークの震えが、少しだけ治まった。

(そうだ!こんな状況で気落とされたら、一瞬で死ぬぞ)

心の中で自分に言い聞かせると、クラークは大きく息を吐いた。 それから、ジャスティンの背中に隠れながら、呟くように言った。

「騎士団長だ」

クラークの言葉を聞いた瞬間、普通の人間ならば、怯えるはずなのに、

「へえ〜」

と、ジャスティンは言っただけだった。

「お、お前!?」

クラークは、ジャスティンが恐怖で頭がおかしくなったんじゃないかと…心配になってきた。

「いいじゃないか!」

ジャスティンはゆっくりと、腰の重心を下げた。

「あれが、騎士団長なら!倒すことができたら、多くの人間に希望を与えられる!」

不敵に笑ったジャスティンは、攻撃体勢に入った。

「馬鹿か!相手は、神レベルだぞ!」

「だからこそだ!」

ジャスティンは走りだした。一足目から一気に加速し、不動に向かっていく。

「これはこれは〜」

不動は慇懃無礼に、頭を下げた。

「まさか、私に…素手で向かってくる人間がいたとは」

そして、頭をあげるとにやりと口元を緩めた。


「馬鹿か」

クラークもほぼ同時に、加速した。

「炎の魔神に!拳が通用するか!」

クラークの声も、ジャスティンには届かなかった。