「何だ?」

ギラは頭をかきながら、振り返った。

「ご迷惑をおかけしたついでと言っては何ですが…」

「だから、何だ?」

ギラはサラとの件もあったので、少し苛立ってしまった。

びっくと身を震わせながらも、アスカはきいた。

「今…聞こえる声は何ですか?」

「うん?」

ギラは眉を寄せると、耳を澄ませた。

小鳥の囀りが聞こえた。

「鳥の歌がどうした?」

ギラはその時…鳥の声ではなく、歌と伝えた。

そのことが、アスカの中に強くイメージとして残った。

「歌…」

その単語は知っていた。しかし、アスカに歌を聴かせる者はいなかった。

(歌)

アスカはぎゅっと、胸を握り締めた。

(あたしも…あんな楽しそうに歌いたい)

それが、アスカの初めての願いとなった。

嬉しそうな表情を浮かべるアスカを訝しげに見た後、ギラは歩き出した。

「死にかけたのに…普通笑うか」

首を傾げ、玉座の間を出て行くギラの雰囲気に気付き、アスカは慌てて頭を下げた。

「ありがとうございました」



鳥の歌声…。それは、アスカの希望となった。

ほんの少しの希望であるが、そんな感情を持ったことのないアスカにとって、とてもとても大切な思いとなった。

例え…叶わなくても。