「うん?」

体の向きを変えたギラの目に、アスカの姿が映った。

アスカは、玉座の横で立ち上がると、穴が空いている壁の方に、ふらふらと歩いていった。

「あ、あ」

声を出し、アスカは小鳥の囀りが聞こえる方を目指していた。楽しげな鳥の声が、自分を呼んでいるかのように思えた。

吹き抜けから入ってくる風が、アスカの全身に当たった。その感覚も初めてであり、とても心地良かった。

だから、アスカにはその先が危険であるとは思わなかった。

あと数センチ進めば、足下から床はなくなり…そのまま地面に落ちることなど考えていなかった。

ただ…囀りの楽しさが、アスカの心をとらえていた。

(私も…あなた方のように…)

アスカは鳥を知らない。楽しげな声を出す存在としか認識できていないが、声の感じから悪意はないと思っていた。

確かに、悪意はないだろう。しかし、その他もない。少なくとも、その声は…アスカには向けられていない。

だけど、アスカが気付くはずもなかった。

「……あっ」

引力は突然、アスカの足を引っ張った。

そして、数秒後には、地面に叩き付けられることになる……はずだった。

「何をしている?」

ギラの丸太にような太い腕が、片手でアスカを掴んでいた。

「王の不在の時に、勝手に死なれては困る。それも、俺の目の前でだ」

まったく力を入れることなく、アスカを部屋の中に戻すと、ギラは床の上にアスカを置いた。

「どなたか存じませんが、ありがとうございました」

アスカは立ち上がると、深々と頭を下げた。

「礼はいらん。だがな…もう向こうには行くな」

ギラはそう言うと、アスカに背を向け、歩き出した。

「あ、あのお…」

だけど、アスカが呼び止めた。