「サラよ」

階段を上がるサラに、カイオウは声をかけた。しかし、足を止めることはなかった。

「まったく…」

カイオウは軽くため息をつくと、扉の中に入ろうと、まだ熱い取っ手を握り締めた。

肉が焼ける音がしたが、すぐに取っ手はもとの温度に戻った。

しかし――。

「フゥ〜」

カイオウは息を吐くと、取っ手から手を離し…開けることを止めた。

気分が乗らなくなったのだ。

(同じ騎士団長だ…。いずれ会う)

カイオウは扉に背を向けると、階段に向かって歩き出した。



一方…階段を上りきったサラが再び、複雑な回廊を歩きだした。すると、前から3メートル巨体を揺らしながら近付いてくる魔神に気付いた。

「おっ!ここにいたのか」

サラを見つけると、ぱっと顔が明るくなった魔神の名は、ギラ。サラと同じ空の騎士団長である。

「フン」

サラは顔を下に向けると、

「お前も…炎の女を見に行くのか?」

「炎の女?」

サラに言われて、ギラは首を捻った。

少し考えてから、ああと頷いた。

「あの女神の出来損ないか」

「出来損ない?」

サラは顔をあげると、ギラを睨んだ。

「ち、違うのか」

思わず怯むギラに、サラはまた顔を逸らすと、

「仮にも騎士団長だ。その強さは、我等と同等!それに、同士を出来損ないとは呼びたくないものだな」

ギラの横を通り過ぎた。

「す、すまない…。言い方が、まずかった。訂正する」


ギラは振り向くと、そのまま…サラの後ろをついて歩く。

「だったら…女神の力はどうした?2つに別けたのだろ?もう1人…騎士団長ができてもおかしくないだろ」

サラの背中に向けてのギラの言葉に、

「無駄だ」

サラは、一言だけ告げた。

「ど、どういう意味だ?」

ギラは声をあらげた。

サラは唇を噛み締めると、前方の闇を凝視し、

「心がなかったのだ」

少しだけ歩く速度を緩めた。

ぶつかりそうになったギラは、サラを避けると前に出た。