「目覚めたか?」

上から聞こえる声に、目を開けた女は初めて見る世界に戸惑っているのか…すぅと目を細めた。

その時の動きが、女の表情を決めた。

切れ長の瞳を持つ…女。

「我等が王から、お前にプレゼントがある」

石の祭壇に横たわっている女を、見下ろしていたのは、サラだった。

城の地下室のひんやりした空気が、女の瞼が開いたと同時に、一瞬でサウナに変わった。

石の祭壇が、真っ赤に燃え上がる。

「それは、お前の名だ」

サラは、目を開けてもまだ虚ろな女の瞳を無視して、言葉を続けた。

「お前の名は、リンネ。炎の魔神を従えるべく創られた」

「…」

女は、名を貰っても反応がない。

サラは、数秒だけ女を見つめると、祭壇に背を向けた。

「王の為に、働け」

それだけ言うと、歩き出した。

「フン」

サラは小さく鼻を鳴らし、地下室から出た。すると、扉の横にスーツ姿の男がいた。

「どうでした?我が同胞は、お目覚めになられましたかな?」

壁にもたれて、ポケットに両手を突っ込んでいる男の胸ポケットには、赤い薔薇が刺してあった。

「悪趣味だな」

顔をしかめたサラの言葉に、男は肩をすくめ、

「これは、人間の正装だが?」

「だから、悪趣味だ」

サラは男から、顔を逸らした。

「武骨な君には、わからんのだよ。この絶妙なバランスがね」

男が首を横に振った瞬間、身に纏っていたスーツが黒焦げになった。

「やれやれ…」

全裸になった男の体は、炎でできていた。

「折角の服が…」

燃え尽きても、別に残念そうでもなかった。

ただ…。

「この服を得るには、結構遠くまで行かなければならないんだよ。私に歯向かってくる兵士達は、着ていないからねえ」

面倒くさそうにだけ、こたえた。